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「働き方改革」という言葉が日本の社会に浸透し、これまでにないワークスタイルを確立する企業が増えるいっぽう、それをどこか遠くの世界のことのように感じている人って、実は少なくないはずです。
そこで今回は、プライムアシスタンス(以下、PRA)でも活用中のクラウドアプリ「kintone」を提供している「サイボウズ株式会社」の働き方改革にフォーカス。「100人いたら100通りの働き方」など、10年以上にわたり新しい働き方を模索し、実現を続けるサイボウズとPRAの対談を開催しました。サイボウズが働き方改革を始めた背景から目指すものまで、「働き方改革って何のため?」をテーマにとことん深掘りします!
2005年サイボウズ入社。自社メディア「サイボウズ式」の初代編集長。出版事業「サイボウズ式ブックス」を立ち上げるほか、働くママのワークスタイルムービー「大丈夫」、CM「がんばるな、ニッポン。」を制作する。
社員との相互インタビューで確認した意見や他社取組事例を参考にPRAの働き方改革を実現するため日々奮闘中。
自社オウンドメディア「ぷらぷら」の初代編集長。「明日いきたい会社を創る」が個人のモットー。経営企画全般から、4月より新設した新事業開発の専任へ。「あらゆるお困りごとをアシストする会社」の実現に受け奔走中!
「働き方宣言制度」や「ウルトラワーク」など、数々の制度を設けているサイボウズですが、働き方改革を始めたのは、離職率の高さがきっかけだと聞いています。そのときのことを教えてください。
働き方改革を始める前は、離職率が28%という時期もあって、どんどん人がやめてしまっていました。また、当時サイボウズはBtoBビジネスが中心で知名度が低く、学生にもあまり知られていなかったので、とにかく採用するのも大変で。転職してくれる人もいないし、入ったとしても年間で約1/4の社員が辞めてしまうのは、会社としてものすごくリスクが高く、まずはそこをどうにかしようと働き方改革が始まりました。
最初は女性社員に対して、「出産しても会社に戻ってきてもらいたい」と、育休6年制度からスタートしたんです。「女性活躍」とかお題項目で始めたのではなく、「僕らはとても困っているので、働き方改革を始めました」というのが一歩目でしたけど、その後の数々の制度を作るにあたり、それが実はすごく良かったのだと今では思っています。
育休6年はかなり長いですよね。有難い半面、浦島太郎状態で復帰するのも勇気が要りそうですが……。
育休6年の制度を作ったときは、「IT業界だし、復帰するころは仕事の仕方も内容も変わってるんじゃないの?」という意見もありました。最長で4年数カ月くらい育休をとって復帰した人がいましたが、ツールがアップデートしたくらいで、意外と変わっていなかったですね(笑)。
当社はコンタクトセンターが中心になっていて、24時間365日のシフト制で働いている社員の割合が最も多く、シフト勤務している社員に何ができるのか、というところから働き方改革が始まっています。
女性が全体の7割を占めているので、妊娠・出産で会社を辞めなくていいよう、育休は2年ですが、育児時短勤務はお子さんが小学校4年生になるまでと、長めに設けています。子育て中の方は、所属長と相談のうえでシフトを固定して保育園の送り迎えができるようにしたり、日曜日をシフト休にするなど、当社も「子育て」に関する事はとくに大事にしています。
働き方改革に関する制度は、どういう過程で生まれるのですか?
「働き方宣言制度」や会社の骨格となるものは、人事部のアイデアとして出てくることが多く、そのほかの「子連れ出勤制度」などは、そのニーズを感じている人が声を上げるのがきっかけです。
制度を決める部署のようなもの、また、案を経営会議にかけるとか、企業で一般的に行われているアプローチや仕組みのようなものはあるんですか?
うちの会社はkintoneをFacebookのように使っていて、何かを思った瞬間につぶやける「分報」と呼ばれるスペースを作っています。そこで一人ひとりが、自分のスレッドを立ててつぶやくんです。
新しい制度が欲しいと感じたなら、そのニーズを感じた社員が、kintone上でボソッとつぶやいて、そこに社内のフォロワーから「わかる!」「いいね」「その制度ほしい!」といった反応がつきます。それを人事部が見つけて制度としてどうするかなどの検討が始まったり、逆に社員側が人事部に「この制度どうですか?」と相談するパターンもあります。
いずれにしてもグループウェア上で意見が出て、それが膨らんでいくパターンが多いですね。
一人ひとりがオープンスペースでつぶやくのってすごいですね! つぶやける環境と社員の意識があって、さらにそれを活用しようという会社の風土があるんですね。
そうですね。でも最初は「業務中に何をつぶやいているんだ」と反対する人もいました。
ただ、これは組織変革のときのセオリーですが、何か成功したり成果が生まれると、それを真似したくなる人が現れて、やがてそれは口コミで広がっていくんです。ファーストペンギン(海の中に天敵がいるリスクを負いながらも、最初に飛び込むペンギンのこと)というか、僕もそっち側の人間ですけど、つぶやいてアイデアがつながって、いいものが生まれました、となると反対派の人たちも急に「ちょっとそれ教えてよ」となる(笑)。小さな範囲で始めてみて、何でもいいので成功すると、だんだん広がっていくのが日本の企業らしい組織変革なのかなと思います。
働き方改革を始めて10年以上になるということですが、働き方改革を進めるなかでの壁やつまずきのようなものはなかったんですか?
もういろいろありました(笑)。やはりステージが上がっていくに従って、そのステージにふさわしい問題が生まれるんです。現在の「自由にオープンに発言できるようになりました」という段階での問題は炎上が増えたことで、やはり発言のスキルが低い人もいるので、誰かを傷つけるような言葉が出ることもあります。
昨年サイボウズでは「がんばるな、ニッポン。」というテレビCMを作ったのですが(※大槻さんのチームが制作)、それも社内では大炎上しまして。なぜ反対なのかをロジカルに、相手へのリスペクトをもって発言してくれたら受ける側も対処ができるけど、「気持ち悪い」といった感じで書き込まれてしまうと、どうにもならなくて。
それは実名で書き込むんですか?
そうです。そういう言葉がkintoneに載るんです。それで僕らのチームはどんどん心が疲れていって。これが今まさに直面している問題で、オープン、透明性、フラットと推進していった先にあるのは議論のスキルで、互いに対するリスペクトがないといけないよね、ということをどう浸透させていくかが課題ですね。
それはかなりハードですね。テキストでのコミュニケーションって実は難しいじゃないですか。会社として大切にしていることとか、根っこの部分で意識がそろっていないと難しいし、自分がどの立ち位置で話をするかでも全然違いますよね。
これまでの10数年間、働き方改革を進めるうえで意識してきたのは議論のスキルをちゃんと身につけることで、そのための研修も徹底的に行ってきました。事実と解釈を分けましょうと。
たとえば、「この部屋は暑い」は解釈だけど「この部屋の温度は28℃」は事実で、事実をもとに話し合わないと意見がかみ合わないよねとか、よく「問題です」などと言う人がいますけど、「問題というのは理想と現実のギャップだから、あなたには理想が見えているはず、それは何ですか?」という形で会話を進めると最終的に「理想はないんです」となったり。「じゃあそれは問題じゃないんじゃない?」とか「問題と思ったきっかけとなる現実はなに?」と。
こういうスキルを社員に身につけさせることで、オープンな中でも、業務コミュニケーションはしっかりとれるような体制を維持できているかなと思っています。
コミュニケーションに対する労力、コストがすごくかかっていますよね。
かかります。めっちゃかかります。
コミュニケーションをフラットな状態でできるようになる前の段階って、受け止める側(上司)のスキルの高さが要求されるじゃないですか。上司と部下との関わりのなかで、上司への負荷ボリュームがすごくかかる気がして。話していて、それを自分がやっていけるかなと……(笑)。でも、社員の自立は、上司や会社が受け止めるプロセスなしでは成しえないですよね。
サイボウズは、それをやらなくてはいられないくらい困っていたんですよね。なので、働き方改革は困っていないとうまくいかないと思います。その過程では、それまでの「大きく成功しよう」というITベンチャーらしい社風から急激に変わることで、納得できなくて辞めていく社員もいました。
ただ、サイボウズがラッキーだったのは、働き方改革に対する社長の覚悟が大きかったことです。会社は社員一人ひとりの幸せな働き方を実現する場でありたいから、売上と働き方改革のどちらを優先しようかといったら、それは働き方改革だろうと。そういった、社長からの「売上を達成するためにブラックな働き方をしてほしくない」というメッセージを受けて、一人ひとりを大事にしてくれるんだと社員が感じると、今度は社員にスイッチが入って、頑張ろうと思える。それからは売上も右肩上がりで現在に至ります。いわば急がば回れ、ですね。
お話を聞いていると、サイボウズさんは本当に働き方改革の最先端をいっていると感じるのですが、当社もさまざまな制度があり、正社員をA 、Bという2つのコースに分けたんです。Aはアクティブコースで、いわゆるオーソドックスな正社員、Bはバランスコースで、時短勤務の要件には該当しないが、介護や子育てで時短勤務を希望する社員、勉強、趣味などを極めたいなどの理由で短時間勤務を希望する社員に対して、1日最短4時間勤務を選択できるといったものです。
とはいえコンタクトセンターはシフト勤務なので、バランスコースを選択する社員が増えた場合、シフトを組むことが難しくなる可能性があったり、悩みもあります。男性の育児に対応する休暇制度も作ったのですが、まだまだこれからという状態です。
世の中の動きなどを見て制度を作っていますが、たとえばテレワークにしてもコンタクトセンターで働く人にはできないこともあるわけで、そういったことも働き方改革を推進するうえでの課題ですし、本社と各センターとの温度差のようなものも生じている場合もあると思います。
サイボウズにもサポートセンターが松山と札幌にありまして、今はテレワークができるようになりましたが、昨年コロナ禍に入ったばかりのころは、インフラも整っていなかったので出社しなくちゃいけなかったんです。
サイボウズでいつも言っているのは、「一人ひとり違うんだよ」ということで、それに尽きるかなと思います。インフラが問題ではあるけれど、出社しなきゃいけない仕事をしているわけで、そのためのサポートの仕組みは職種で当然違ってくるし、不公平、不平等という流れで議論をすると低レベルの方に合わせなくてはいけなくて、お互いに不幸になるんです。
サイボウズは一人ひとりが幸せに働くための環境を用意する会社というのが前提で、「あなたはどう働くと幸せになれるのかを会社に言ってください、それを会社は実現していきますよ」というのがベースにあるし、それを社員がわかっていれば自分の環境を何とかしようと思うことが大事で、他者と比較しての「不公平」「不平等」という声はあまり出ないですよね。それは全てにおいて同じで、今、サイボウズは働き方が多様になったのもあり、一般的な等級制度をなくし、給料も一人ひとりと話し合って決めているんです。
一人ひとり?それはすごいですね。
今の形になる前は、会社に不満があってやめていく人が多く、理由を聞くと、たとえば給料の金額に不満があるんじゃなくて、なぜこの金額になったのかを知ることができないから不満です、という声がありました。今は上司と話し合う機会を設けて、先に「これくらいほしいです」と提示してもらい、それをもとに上司が「あなたのスキルだと、転職市場の相場観としてはこれくらいの金額ですね」と材料を用意して徹底的に話し合うシステムにしたら、給料が不満でやめる人や、不満を言う人が激減したんです。
制度に対する不公平感もそうですけど、会社に対する不満は突き詰めると、会社が社員一人ひとりの気持ちを聞いていないから生まれるものなんですね。不公平感を解消しようとか、不満なら金額を上げようとかは、場当たり的な対応になる可能性があるというのがサイボウズの感覚です。
もともとサイボウズはふつうの日本企業で、それが今のように変わったポイントは何かというと、事例が積み重なることの大事さに気づいたことですね。どんな人でもふとした瞬間に、わがままや希望を言うときがあって、そのとき、その気持ちをちゃんとつかまえて実現する事例を積み重ねていくと、「こうすればいいんだ」とみんなが気づいていくんです。
以前あったことですが、営業部3年目くらいの社員が外回りをしていて、会社に戻るのも時間のロスだからと、一旦カフェに入って次の営業先に向かったんですね。そのときのカフェでの飲み物代は自腹だけど、これは経費になりませんか?という提案があって、それが通ったんです。確かに会社負担でいいよねと。こういう細かい事例が積み重なっていくこと、ファーストペンギン的な人を大事にするのは重要で、希望や提案があったときに潰してしまうと、その人はその後、会社の言うままになってしまうんですよね。
社員からの提案や要望に対し、ひとつひとつ丁寧に、紐がこんがらがる前に解いて、ということをずっと続けてこられて、その労力が半端ないから会社が変わったんだなと感じます。
コミュニケーションがすべてだと思えないとできないですよね。上司側、会社側にも本気の覚悟が必要だなと感じました。
当社では、人事総務部と社員間の相互インタビューを進めています。これまでは社内の皆さんの声が十分に「見える化」できていなく、都度、個別に意見を聞くという形だったのを、能動的にこちらから話を聞きに行こう、その声を働き方や制度、オフィス環境に反映していこうと昨年末くらいから始めました。
まずはコンタクトセンターから開始していて、各拠点でランダムに人選してもらっているのですが、ざっくばらんな会話のなかで「社員はこんなことを思っているんだ」と改めて気づくことも多いですね。
以前、コンタクトセンターのロッカールームが出勤で混雑する時間帯になると身動きがとれない、という声があって、それを所属長にすぐ伝えたところ、その日のうちにロッカールームのレイアウトが変わっていたこともありました。些細なことかもしれないけれど、こういうことって大事なんだと。
素晴らしいですね。そこがまさに働き方改革の原点だと思います。声を聞いたらすぐ対応することが大事で、「聞いて応える」「聞いて応える」ことを繰り返すのが働き方改革だと思います。
本当にそうですよね。そういった実例を社内にアピールしていければ、「私も言っていいんだ」って思えるようになるし。
サイボウズさんの、声をあげた人が議論の中心になってみんなでアイデアを膨らませ、それを人事が一緒になって制度化を進めるというのは、本当に理想的だなと感じています。
「これは私が発案した制度」「これは僕の発言がきっかけ」という事例が増えるといいですよね。
サイボウズもいろいろと試行錯誤してきましたが、最初の最初は「スッキリQ&A」という匿名で投稿できるアプリを作り、そこに不満などを投稿してもらっていました。それは社内のみんなが見ることができるもので、投稿された意見に関しては、経営企画室がきちんと対応します、ということを始めたのが今から10年以上前のことです。
そのうち、だんだん匿名ではなくても言えるようになりましたが、やはり最初からオープンスペースは厳しいかなと思います。
ただ、こういうことは密室ですると握りつぶされる可能性があって、上司から「それはあなたの思い違いですよ」と言われて終わっちゃうこともあるので。みんなが見ることができるところで発言をすれば、それをたしなめている上司に対して「おかしくないですか」と社員たちから矢が飛ぶ。サイボウズがオープンスペースで議論するに至ったのは、そういう力関係に対する思いもあったのかもしれません。
働き方改革があるから変わるのではなく、自分たちで声を上げて働き方を変えることが、働き方改革なんですね。そういう意味においても、働き方改革で目指すものは、社員の自立という面がありますか?
そこはいちばん大切なところですよね。概念的な話ですが、会社という仕組みはそこで働く人たちが幸せになるための便利なツールだったのに、いつの間にかみんな会社のために働いていて苦労していますよね。働き方改革は、その関係を逆転しようよ、みんなが幸せに生きるためのツールに会社を戻そうという動きなのかなと思っています。だからまず働く人の幸せがスタートにあって、その幸せに会社という器が合わないのだったら、会社の形を変えていく、もっというなら、会社というものがなくなっても仕方ないよね、と。
本当にそうだと思います。働き方改革を語るとき、どうしても「会社をどう変えるか」を議論しがちですけど、主語は「I(自分)」なんですよね。組織にいる自分というよりは、自分が働きたい組織がここにあって、仕事と自分のスキルをマッチさせていくのが、究極の姿なのかなと思うんです。ただ、組織にいるというのはいい意味で守られている面もあるから、バランスを取りながら、極力理想に近づけていくのかなと。
会社の働き方改革というのは、個人の働き方を創っていった先に自立があるように、照準を会社から個人に合わせる、その結果として制度が生まれるということですよね。
今日本では就労人口が6,800万人くらいいますが、今後10年間で800万人くらい、東京都で働いているのと同じくらいの就労人口がいなくなってしまうので、採用がどんどん難しくなっていきます。大手転職サイトでの最近の調査によると、転職先を選ぶときには「在宅ワークができること」もポイントのひとつになっているようで、この結果からもわかるよう、今はみんな働きやすい環境を求めているわけで、その環境を作れるかどうかは現実的な経営課題です。
当社の経営方針の3つの柱にも働き方改革を入れていて、まさに今行っている相互インタビューなどを実のあるものにすることが必須だなと感じました。社員一人ひとりの覚悟が必要ですね。
社員みんながそのことを意識して、会社はそれを受け止めることが大切なのですね。大槻さん、長尾さん、佐藤さんありがとうございました!
「働く人の幸せがスタートにあって、その幸せに会社という器が合わないのだったら、会社の形を変えていく」。この大槻さんの言葉にあるよう、幸せな働き方を実現するカギは、一人ひとりが持っているのかもしれません。そのためには積極的に声をあげる、声を受け止める環境や風土があることが大切なのだと実感した対談でした。
今後も、社外取材やインタビュー企画を続ける予定です。「この会社、この取組みが気になる!」というものがありましたら、ぜひお声をお寄せください!
取材・文/山本幸代 写真/菅原愛美(ともに総合企画部)