勇気をもって一歩を踏み出した先にあるのは、自分と誰かの幸せ【視覚障がい者当事者 ブラインドサッカー元日本代表 落合啓士さんインタビュー】

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視覚障がい者の方にスマートフォンを通じて遠隔のコンタクトセンターから視覚情報を提供するサービス「Eyeco Support(以下、アイコサポート)」が実証実験をへて、12月1日よりスタートします。
そこで今回は、アイコサポートを利用する側である、視覚障がい者の方にインタビュー。ブラインドサッカー元日本代表の落合啓士さんに、日々の生活のことからアイコサポートの活用法まで幅広くお話をお伺いしました。

落合啓士さん

落合啓士さん

1977年生まれ。10歳ごろから徐々に視力が落ちる「網膜色素変性症」にかかり、18歳で視覚障がい者となる。
25歳でブラインドサッカーを始め、日本代表に選出。2014年の世界選手権、2015年のアジア選手権ではキャプテンとして出場。2010年には、神奈川県で初めてのブラインドサッカーチーム「buen cambio yokohama」を設立し、2020年8月からは松本山雅B.F.Cの監督を務めている。
ほかにもYouTube、Voicyでの配信など活動の場を広げている。

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新幹線移動もひとりで! アクティブに活動するために自分なりの工夫も

 
プラビット

今日はよろしくお願いします。落合さんには「アイコサポート」の実証実験でのご協力をはじめ、構想段階からたくさんのお力添えをいただいていて、本当にありがとうございます。さっそく落合さんの日常などについてお話をお伺いしたいのですが、ブラインドサッカーの元日本代表として活躍され、現役引退後の現在は、ブラインドサッカーチームの監督を務められていらっしゃるそうですね。

落合さん

2020年の8月から、松本山雅B.F.C(長野県)の監督としてチームの指導をしています。2020年の3月までは東京パラリンピックに出場するために選手として日々トレーニングを重ねてきましたが、日本代表の選手を選ぶための大会があり、そのメンバーに選ばれなかったことで現役を引退し、指導者として次のステージに向かおうと決意しました。

プラビット

松本山雅B.F.Cの練習場までは、ご自宅のある南関東からどのような手段で移動されているのですか?

落合さん

練習は松本市か上田市で行うのですが、松本市のときは八王子駅から特急を、上田市のときは新幹線を利用しています。

 
プラビット

たとえば新幹線の指定席を予約した場合、ご自身の席はどうやって確認しているのですか?

落合さん

座席の通路側に点字があって「こちら側の席は、4A、4Bです」といった具合に、座席番号がわかるようになっているんです。点字が付くまでは自分ひとりでは座席番号がわからなかったけれど、今は自分で確認して乗れるようになりましたね。

プラビット

点字があるかないかで、大きな差がありますね。おひとりで新幹線移動もされる落合さんですが、日常生活において「ちょっと困るな」といったことはありますか?

落合さん

あります、あります。気がついたら歩道からずれて車道を歩いているとか。

プラビット

歩道を歩いているつもりだったのに、気づかぬうちにですか?

落合さん

そうです。歩道のつもりで歩いていて(笑)。たとえば自転車などの障害物を避けながら歩いているうちに方向がだんだんずれてきたり、考え事をしながら歩いたりしていると、自分のイメージからずれていることがあるんです。この前も、車道の真ん中あたりを歩いていたようで、通りかかった小学生くらいの子どもたちが「ここは車道なんで!」と声をかけてくれ、歩道まで連れていってくれました。

プラビット

移動することには慣れていても、そういったことがあるんですね。

落合さん

あと、これは視覚障がい者の方は経験があるかと思うのですが、新幹線や商業施設など、初めて使うトイレは、どこに「流すボタン」があるのかがわからないんです。新幹線も最新の車両だったりすると、それまでと仕様が変わっていて「あれ? ここにトイレがあったような気が……」と、トイレのドアを探すのが大変なときもありますね。移動は大きな面ではある程度大丈夫ですが、そういう細かい面では困ることもあります。

プラビット

外出するときなど、ご自身で工夫されていることはありますか?

落合さん

たとえば、電車や新幹線では、走っている方向に重心が傾くじゃないですか。その感覚を頼りに方角を確かめたりもします。

プラビット

すごい! 体の感覚を使うんですね。

落合さん

移動や外出のほかに、サッカーをするときも同じですが、その場でできるだけ2つは情報を確保するようにしています。「こことここに、〇〇がある」など、ランドマーク的なものをチェックしておくと、だいたいのことは把握できます。ただ、広い公園とか情報量が少ない場所は迷子になることもありますね。公園でも音が一定のところから聞こえているといいのですが、人の声などは動いてしまって参考にならないので。

プラビット

ほかにも落合さんならではのポイントがあったりしますか?

落合さん

交通量が多い場所は集中力を高めないといけないので、疲れやすかったりするんです。駅から自宅に帰るときも、遠回りにはなっても車があまり通らない道を選んでいますし、駅での乗り換えも、最短ルートではないけれど、使い慣れた駅を通るようにしたりします。結果的に、そのほうが早かったりもするんですよね。

白杖を使い歩く落合さん
 

白杖はくじょう(視覚障がい者の方が歩行時に使用する白い杖)を使い、障害物などの有無を確認しながら歩く落合さん。

ポジティブな経験が、一歩を踏み出す勇気に

プラビット

落合さんのSNSなどを拝見していると、本当にアクティブに日々過ごされているという印象を受けるのですが、今のお話を聞くと、外出するのはやはり大変なのではと感じます。

落合さん

僕はどちらかというと、大変さよりも好奇心が勝るんです。もちろん、迷子になったり、いろいろなハプニングはありますが、困ったときもラッキーなことに誰かが助けてくれて目的地にたどり着けたり、困ったことで逆にいい出会いがあったり、たとえるなら、ロールプレイングゲーム的な感覚だったり、冒険感覚で動いている部分があるんですよね。そういった楽しかった思い出が自分のなかにストックされていくので、「また出かけよう」となるんです。

プラビット

心配なことより、楽しい、嬉しいといった気持ちのほうを大切にされているんですね。

落合さん

不安感や恐怖感はもちろんあるんですけど、ちょっと勇気を出して一歩踏み出してみたら、「意外とできるじゃん!」と思えたり、たくさんの人に助けられたら「今日はすごく嬉しかったな」と前向きな気持ちになりますよね。そういった、成功体験やポジティブな経験を積めたりイメージできたりするのが大きいのかなと思います。

プラビット

視覚障がい者の方のなかには、やはり外出に対するハードルが高いと感じていたり、ポジティブなイメージを抱きにくいと感じている方もいると思いますか?

落合さん

人によりけりだと思いますが、点字が読めるか読めないかでも外出のしやすさは大きく変わりますし、白杖の使い方も訓練して上手にならないと外出が億劫になったりします。そういう意味ではハードルがあるんですけど、そのハードルを越える勇気やエネルギーがあるかどうかが大切だと思います。

僕は10歳ごろからだんだん視力が落ち、18歳のとき視覚障がい者になったんです。成長途中や大人になって見えなくなった人は、その過程で諦めるものや失うものがたくさんあって、そこに自分の感情を全部引っ張られるというか、ネガティブなほうに気持ちが向いてしまうことがあるんです。でもそこから抜け出すための経験を、外出じゃなくてもいいので何か積んで、自分の心をコントロールできるようにならないといけないと思っています。

プラビット

落合さんもネガティブになってしまう時期がありましたか?

落合さん

僕はブラインドサッカーと出会うまではネガティブでしたからね。それまでは、社会のせいにしたり、見えないことを理由にして言い訳をしていました。見えないからできない、と。本当はやる気がないだけなのに、見えないことを理由にしていたなと、振り返ると思います。 でもブラインドサッカーと出会って、練習を重ねるごとに成長を実感できたり、周りの人から「すごいね!」と承認されたり、自己肯定感が高まるような経験ができて、変われたのだと思いますね。

できることや世界が広がるきっかけに。
落合さんならではのアイコサポート利用方法は?

プラビット

落合さんに実証実験の段階で実際に利用いただいたアイコサポートは、「誰もがもっとワクワクする社会を」を理念に掲げています。視覚障がい者の方にとって、アイコサポートを使うことで自信がついたり、自己肯定感を得られるきっかけが作れるとしたら、どんな場面がありそうですか?

【アイコサポートについて】 こちらをクリック

落合さん

利用したうえで感じたことですが、まず移動の点ではアイコサポートを使うと障害物を未然に防げるので助かっています。外出時は白杖で障害物などを確認しながら歩くんですけど、駐輪している自転車の車輪に白杖が挟まって抜けなくなったり、歩行中、自転車に足がぶつかってドミノ倒しをしてしまったりするのって、まぁまぁあるんです。それから、ふだん通っている道で工事をしていることに気付かず歩き続けてしまうようなこともあります。でもアイコサポートを使うことで「前方に自転車があるので、右側によけてください」「道路の左側は工事をしているので、右側を歩いたほうがいいですよ」と、自分では気づけないことをサポートしてもらえるのは、とても助かっていますね。

アイコサポートを利用する落合さん
 

プライムアシスタンス本社ビルへ向かう落合さん。最寄り駅からアイコサポートを利用し、方向を確認。

プラビット

外出するときにそういった安心感があると、気持ちも変わりますよね。とくに初めての場所や慣れない土地では心強い存在として活躍しそうですね。

落合さん

それと、自分のYouTubeチャンネルにアップする動画の編集作業中に使ったことがあったんですけど、僕の頭の中に全然なかった情報を、オペレーターの方が教えてくれたこともありました。ショートカットキーを使って動画編集ができることを知ったのもオペレーターの方のサポートがあったからで、今では自分で編集ができるようになりました。

プラビット

すごいですね! アイコサポートをそんなふうに活用されるなんてさすがです!

落合さん

iPhoneやiPadの操作スピードも上がったし、自分でできる範囲が広がったのは、やっぱりオペレーターの方のおかげだと思っています。次はeスポーツにチャレンジしようと思っています。視覚障がい者にとってゲームって遠い存在だと思うんですけど、もしゲームができるなら世界が広がりますよね。アイコサポート自体の可能性も広げていけるし、視覚障がい者がいろんなことに挑戦するきっかけになれば、もっともっと面白いことが起こるのではないかと思っています。それと個人的には、アイコサポートが将来的に視覚障がい者の職域を広げるツールになればいいなと思っているんです。

プラビット

落合さんは視覚障がい者の方の職域や可能性を広げたいという思いもあり、さまざまな活動をされているんですよね。

落合さん

僕はマッサージ師の資格をもっていて、企業とマッサージ師としての雇用契約を結んでいますが、新型コロナ流行の影響で一切仕事がなくなってしまい、今も職場に戻ることができる目途がたっていないんです。視覚障がい者の約6割が鍼灸、マッサージの仕事をしているといわれているなか、コロナ禍のような状況だと職域がさらに狭くなってしまいます。 それもあって僕は視覚障がい者の可能性をもっと広げるために、いろんなことをしていこうと思っています。まずはYouTubeチャンネルを持つことから始め、音声プラットフォームの「Voicy」のパーソナリティとしても自分のチャンネルを持って配信しています。視覚障がい者でも、努力と工夫があれば道は開けることを伝えたいですね。

プラビット

ご自身の姿を通じてそれを表現しているんですね。

落合さん

夢が叶う、可能性が広がるかは自分次第ですけど、最初からあきらめてしまうのは違うと思うんです。だからまず、僕自身がYouTubeやSNSで発信をし、そういう活動をすることで何か道を作ることができるんじゃないかと思いますし、晴眼者せいがんしゃ(視覚に障がいがない人)も、視覚障がい者に対する理解がちょっとでも深まるのではないかと思っています。

落合さんインタビュー中
 

一人ひとり、違いがあって当然。今見ているのは、あるひとりの視覚障がい者のこと

プラビット

日々のなかで、視覚障がい者の方への理解が進んでいると感じることはありますか?

落合さん

僕がまだ10代のころは、視覚障がい者が色眼鏡で見られているところがあったし、それがすごく嫌でしたが、ここ10年くらいで、だんだん社会が変化してきたと思います。とくに東京パラリンピックの開催が決定してからは、メディアで視覚障がい者の特集があったり、学校でも障がい者を講師として招いて講習会を開くような機会がものすごく増えて、子どもたちが理解を深めるきっかけができていると感じます。

プラビット

パラリンピックを見て知ったことも多かった気がしますし、ブラインドサッカーはテレビで試合を放送していて、初めてじっくり観戦しました!

落合さん

ブラインドサッカーって、以前は新聞のスポーツ面ではなく社会面で取り上げられていたんですけど、10年くらい前からだんだんスポーツ面で試合の結果などが掲載されるようになって、そんなところでも変わってきたなと思います。僕自身も、スポーツ選手として見られるようになったからこそ、言葉だったり態度だったり、行動などが変わってきましたね。

プラビット

視覚障がい者の方に関する情報をより自然に、誰もが受け取れるようになったら、もっと社会も変わっていきますよね。そういう意味では、まだ壁はあると思いますか?

落合さん

あると思いますね。子どものころは学校の授業などで障がい者と触れ合う機会がありますが、大人になるとそういう機会はないんですよね。だからこそ、メディアでの取り上げ方や伝え方が大切だと思います。たとえば「視覚障がい者って大変なんだね、かわいそうなんだね」と感じるような伝え方をされても、僕は「いや、見えない世界でも楽しいですよ」って思っちゃうんです。もっとある意味ライトで、明るく楽しく、結果的にポジティブなイメージを抱くような伝え方をすれば、「どんなふうに楽しいの?」と興味をもってもらえるし、自然な形で視覚障がい者に対する壁が低くなっていくと思うんです。

プラビット

ネガティブなイメージを持つような伝え方をされてしまうと、「やっぱり自分とは違う世界の人か」といった感覚を持たれてしまうということですか?

落合さん

そうですね。ただ、本当の意味のダイバーシティって、みんな違っていていいわけです。視覚障がい者とひと言でいっても十人十色だから、自分のことを面白おかしく伝える人もいれば、とても苦しい思いをしている人もいます。いろんな人がいるなかで、「あくまで今伝えているのは、ひとりの視覚障がい者のことです」とそこまで伝えたらいいし、受け取る側もそう感じることができればいいのだと思います。

プラビット

つまり、視覚に障がいのある落合さんの日常も、とある晴眼者の日常も、ただ一人の人としての日常で、そこに何ら違いはないのです、ということでもありますか?

落合さん

そうです。

プラビット

そういうことも伝えたいという気持ちが、自らの日常をSNSなどで配信をする根底にはあるんですね。どんどん前を向いて進んでいくような、そんな強いメッセージを多くの方に送られているんだなと思います。

落合さん

自分の人生を変えるのって自分の行動しかなくて、待っていても幸せにはなりません。自分が幸せになるために、じゃあ何ができるのかを考えた結果、自ら発信をしようと思ったんですね。もし僕の動画を見て、視覚障がい者を少しでも理解できたり、障がいを持つ人にやさしい社会を作っていこうと思った人がチャンネル登録をしてくれたら、その人数が増えていくことによって、社会も変わっていくと思うので。そんな信念を持って発信を続けることが大事かなと思っています。

プラビット

幸せになりたければ自分で動くというのは、本当にその通りですね。ただ何か始めたりすることにはリスクを伴う場合もあるわけで、やっぱり引き気味になってしまうこともあると思うんです。落合さんがそういう気持ちを乗り越えるときに思うことや原動力って何ですか?

落合さん

それをすることによって、自分の未来がワクワクしたものになりそうかどうか、ですかね。未来を想像したときに、それで自分が幸せになっているのか、それから自分の幸せプラス、誰かの幸せになっているかも大切。自分がハッピーになって、誰かがハッピーになれば、またそれが自分に返ってくる、それって二度お得じゃないですか(笑)。

プラビット

確かにそうですね。自分の幸せと誰かの幸せ、それが落合さんのパワーの源になっているんですね。今日はありがとうございました!

落合さんインタビュー後の笑顔
 
 

言葉にとても力があり、一緒にいる人を自然と前向きにさせる落合さん。インタビュー中は、ご自身の考えや気持ちを、一つひとつ丁寧にお答えいただいたのが印象的でした。今回お話をお聞きし、「本当の意味のダイバーシティ」を改めて考える機会となりました。落合さんのSNSを通じた発信、これからも楽しみにしています!


取材・文/山本幸代 写真/藤田玲子(ともに総合企画部)
編集協力/藤井実都江(ライフ事業部)

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